証拠
証拠、根拠を意味する「evidence」(エビデンス)は、近年日本でもカタカナで広く使われるようになりました。添付資料や議事録まで「エビデンス」と呼んでウザがられる人もいるようです。
犯罪捜査ドラマで「evidence」は、犯行現場に残された「物的証拠(物証、physical evidence)」を示すことが多く、事件現場で採取(collect、gather)され、証拠品袋(evidence bag)に入れられ、裁判で使われます。
また、犯人や関係者(時に捜査側も)によって改竄されたり(tampering)、捏造されたり(fabricating)、仕掛けられたり(planting)、証拠保管倉庫(evidence lockup、evidence locker)から盗まれたりします。
証拠と訳される語には「proof」もあり、こちらは「それにより証明可能なもの」。
凶器についた指紋という「evidence」は、指紋の主が凶器に触ったという「proof」になります。ただし、偽装された指紋かもしれないので注意が必要です。
「evidence」と「proof」の両方が入っている例を一つ。「キャッスル」シーズン3-15では、キャッスルの旧友が被疑者になってしまいます。状況証拠(circumstantial evidence)により旧友の容疑は濃くなるばかり。
Beckett: All the evidence points to <被疑者>.
Castle: Yes, but wouldn’t that evidence be less conclusive if <被疑者> didn’t have this old murder hanging over his head, or better yet, if there was proof that <過去の被害者> was killed by a random intruder? (Castle 3-15)
ベケット「証拠はみんな<被疑者>を指してる」
キャッスル「うん、でももし<被疑者>に過去の殺人容疑がまとわりついてなかったら、証拠はあまり決定的ではなくなるよね、<過去の被害者>を殺したのが偶発的な不法侵入者だと証明できるものがあれば、今回の証拠はもっと弱くなる」
物的証拠の専門家といえば鑑識(crime laboratory、forensic inspection)です。「CSI:科学捜査班」の初回、チーフのグリッソムが新人ホリーに、という体(てい)で視聴者に、部署の仕事内容を言います。再現の物理的実験シーンはこのドラマの見どころの一つで、お金がかかっていそうです。
We scrutinize the crime scene, collect the evidence, recreate what happened without ever having been there. Pretty cool, actually. (CSI 1-1)
事件現場を精査して、証拠を集め、自分たちがいなかったその場所で何が起きたのかを再現する。けっこう面白いよ。
「evidence」は不可算名詞だとわかりやすい例がこちら。飛行機内の事件の検証のため、ダミー人形を交えてロールプレイングし、時系列順に証言と位置を確認します。
Brass: So, you want to tell us what we’re doing here?
Grissom: The physical evidence that Sarah, Nick, and I collected is contradicting the anecdotal statements that you, Catherine, and Warrick got and my money’s on the physical evidence. (CSI 1-9)
ブラス「何をやろうとしてるのか、そろそろ教えてくれ」
グリッソム「サラ、ニック、私が集めた物証と、あなた(ブラス警部)、キャサリン、ウォリックが取った乗客個々の人証(証言)と食い違っているんです。私は「物証」派。
※「my money’s on」はだいたい比喩の賭け金ですが、ラスベガスだからか本当に賭けていることも、なくはないです。
取り調べで潔白を主張するが、不利な証拠に反論できない被疑者。
I didn’t kill <犠牲者>…but my lawyer says the evidence is against me. (CSI 1-12)
私は<犠牲者>を殺していない……だが弁護士が、証拠は私に不利だと言う。
証拠が足りないと、被疑者を拘束しておけません。
An arrest was made, but the suspect was released due to insufficient evidence. (CSI 3-1)
逮捕はされたが、被疑者は証拠不十分で釈放された。
証拠があっても「疑わしきは罰せず」「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従う必要があります。
When faced with evidence that can equally exonerate or implicate a suspect, we must as objective interpreters of that evidence…side with the defendant. (CSI 1-14)
被疑者を同じ度合いで無罪にも有罪にもできる証拠に向き合った時は、その証拠を客観的に解釈する(立場の)者として、被告人に有利な判断をしなければならない。
物的証拠のほか、目撃者(eyewitness)などの証人(witness)、証拠書類(documentary evidence)なども「evidence」に含まれます。
Four boxes of evidence, plus two hard drives…containing all photographic and documentary evidence. (The Mentalist 4-13)
箱4つとハードディスク2台……証拠写真と証拠書類が全部入っている。
他人や組織の悪事の証拠を握って、自身の犯罪に活用する者もいます。
He says <被疑者> has evidence of murder, corruption, blackmail, and not just from governments–from corporations, billionaires. (The Blacklist 3-16)
<被疑者>は殺人、汚職、脅迫の証拠を持っていて、出どころは政府だけでなく企業や億万長者たちだと彼(レディントン)は言っています。
犯人が鑑識に調べられるのを承知の上で、証拠の捏造や偽装をするのは珍しくありません。また、誰かを犯人に仕立て上げたい人物が、証拠になりうる物を移動してしまうこともあります。
‘Cause he’s smart, the only physical evidence you’ll find is what he wants you to find. (Criminal Minds 1-1)
この男は頭がいいから、見つかる物的証拠は、彼が見つけてほしくて残したものだけだ。
I planted evidence to get <人名> off the streets so no other people, especially my friends, would get murdered. (NCIS 14-21)
街から<人名>がいなくなって、もう誰も、友達も殺されないようにしたくて証拠を仕込んだんだ。
中には破格の証拠作成も。
Reddington: Leaving cloned DNA at crime scenes to mislead the police.
Even incorporating synthetic DNA into genuine human tissue.Liz: So this isn’t just evidence tampering, this is genetic manipulation. (The Blacklist 1-12)
レディントン「警察を間違った方向に導くために、犯行現場にDNAクローンを残す。純粋なヒト組織に合成DNAを組み込みさえする」
リズ「では、これは単なる証拠の改竄じゃなくて、遺伝子操作だと」
最後に、「CSI:科学捜査班」から、証拠を扱う者の多数の心得のうち3つを紹介します。
You don’t crunch evidence to fit a theory. (CSI 1-10)
The evidence only knows one thing: the truth. (CSI 1-5)
People lie. The evidence doesn’t lie. (CSI 1-3)
理論に合うように証拠を噛み砕くものじゃない。
証拠が知るのはただ一つ:真実だ。
人は嘘をつく。証拠は嘘をつかない。